| ベンさんは20年のキャリアを持つ、ホテルのベテランドアマン。務めていたのは、あのワートレにあったマリオットホテルだ。事件を知って一番に心配になった。夜から翌朝までのシフトなら、あの朝はちょうどホテルで働いていることになる。何度電話をしても連絡のつかないまま私は帰国してしまい、彼の声が聞けたのは日本に帰ってからのこと。「地獄だったよ」やはりあの朝ベンさんはホテルで勤務中だった。1機目の旅客機激突後、なんとかビルから逃れられたものの、その途中のストリートにはすでに犠牲となった人々の遺体が散乱し、人間の肉の破片が雨のように降ってきたという。同じマンハッタンとは言え、事件現場からは百数十ブロックも離れたハーレムに住んでいた私は、その生々しい光景を知らなかった。 |
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南米から戻ったばかりのアレックスは、さぁ、仕事を見つけなくちゃと、いくつかのジョブインタビューも決まっているようだった。彼のアパートは、ブルックリンでもイーストリバーをはさんでマンハッタンからすぐの場所。友人とふたりで遊びに行ったのは、事件のほんの数日前だ。屋上からの眺めは、ワートレが目の前にそびえ、ポストカードのような夜景にうっとりしていたのに。「2機目が突っ込むのは、アパートの屋上から見た。なんてことだよ、信じられる?!」アレックスとはすぐに連絡が取れた。温厚なやさしい性格でナチュラリストの彼が、F○○○の4文字ワードを連発しながら話していた。どれだけショックを受けているか、憤りを感じているかが痛いくらいわかる。 |