2007年09月21日
心のグラデーション

教えられるよりも、教える方が、より学ぶ事が多いようでございます。
プロを育成する講習をするようになってから十数年になりますが、
様々な事を生徒達より教わったり、気付かされたりしました。
なーんて言えば、きれいごとで体裁を取り繕っているように
聞こえるかもしれませんが、
ホントにそうです。
自分では何の努力もせずとも簡単にできるテクニックも、
実は生徒達にとってはかなり至難の技であったり、
逆に何年も費やして得たテクニックが、
いとも容易くやってのけるツワモノ生徒がいたりと…
そんな日には落ち込んで眠れず自暴自棄に陥ります。
そのなかでも、線とグラデーションの関係には考えさせられました。
メイクにおいて描くという行為には、
たった2つのテクニックしかありません。
それは、線を明晰に描くことと、
グラデーションを柔らかく施すこと。
基本的にはこの2つのテクニックしかないのです。
例えば、線テクはリップラインや眉尻、
そしてアイライン等。
最近のリップグロスてんこ盛りなどは線が明確ではないですが、
濃いリップカラーとなると、やはり線が明晰な方が
清潔感があってきれいです。
そして、暗い部分から明るい部分に向かって
徐々にボケて消えて行くのがグラデーション。
アイシャドーやチークカラー、
そして柔らかな眉頭がそれにあたります。
この2つのテクの複雑な組み合わせによって、
同じ色を使っても顔の印象は随分変わります。
グラデーションの場合、
明暗の幅が広くなればなるほど、情感が深く、
さらに広くなると退廃色の濃い印象になります。
線がシャープになればなるほど、
緊張感のある顔となり、時には挑戦的、
攻撃的な雰囲気までなります。
さて、その線とグラデーションのテク、
生徒達の実習を見ていると、どんなに優秀で器用でも、
最初からこの2つともが上手い生徒がいないのです。
必ずどちらかが上手でどちらかが苦手。
つまり、線をきちんと描ける生徒は柔らかく煙り立つような
グラデーションが苦手。
グラデーションが上手な生徒は切れるような線が描けず四苦八苦。
線派とグラデーション派にはっきりと二分割されてしまうのです。
この2つのテクをそれなりに習得するにはかなりの努力が必要。
努力のかいあって会得したとしても、
必ずどちらかが微妙に不得手で、この問題は一生つきまといます。
生まれながらに線とグラデーションの2つが超絶的までに美しいのは、
ダ・ビンチぐらいではないでしょうか…それでも彼は最期は
グラデーションの人でした。
さて、自分の技量を棚上げしながらも生徒達に指導していると
面白い事実を発見しました。
それは、線派とグラデーション派はただテクだけの問題ではなく、
心の問題でもあると。
テクと心はシンクロしているという事実です。
まあ、当たり前と言えば当たり前なんですが、
これが実に興味深い。
線が苦手な生徒は、心が絶えず揺れ動いて、
焦り、動揺が見え隠れしてヨレヨレの線となってしまいます。
しかし、そんな生徒でもグラデーションを描かせば、
何も教えなくとも幅広いボカシができ、かなり上手な場合もあるのです。
そんな生徒は心のグラデーションの幅も広い。
心のグラデーション…例えば、真っ黒の部分が心の闇としましょう。
悲しい、辛い、苦しい、あるいは痛い。
そして、最も白い部分が心の明るさとしましょう。
楽しい、嬉しい、愉快、気持ちがいい、というような。
その幅が広いということは、感情の幅も広いのです。
生まれたての赤ちゃんの感情は2つだけ。
笑うと泣く、この2つのみ。
つまり、黒と白の感情しかなく、きわめて線に近い幅です。
しかし、大人になるにしたがって様々な感情や情感が入り交じり
複雑化して、黒から白に向う幅がどんどん広がっていきます。
これが、心のグラデーション。
様々な種類の感情が豊富に心に存在していること。
悲しみから喜びまで沢山の段階の感情を持っている事。
そうすると物事や人の心をキャッチする能力にも長けます。
総じて、線の上手な生徒に比べ、
グラデーションが上手い生徒の方が感受性が強いように
思われます。
ただ、若い場合は心の揺れが安定せず、ブレも起こります。
ですから、線を描くと同じようにブレます。
反対に線のきれいな生徒は心も安定してブレません。
黒と白の、つまり悲しみと喜びの感情の境界が明確です。
複雑な情感もなく悪く言えば単細胞。
しかし、単細胞にも利点があります。
細胞が単純ですから迷いがありません。
迷いがないので、結論も早く仕事もテキパキ。
そして何よりも、線が伸びやかで大らか!
かくも心とテクはシンクロしているのであります。
そこで教える側としては、線派には心の幅を広げるように。
グラデーション派には心のブレをなくすように指導しています。
が、短期間でそれらを習得するにはおのずと限界があります。
少なくとも、それらに気付いてもらえば、その内いつかは線も
グラデーションも自在に操れるかと思ってます。
グラデーションの幅が広く、伸びやかな線を描ける事。
感性豊かな心を持ちながらも、大らかである事。
これが生徒達から学んだ事であり、
私クシ自身のこれからの目標でもあります。
人生も仕事もまだまだ修行が足りません。
投稿者 tadashi : 2007年09月21日 09:59
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.venus-beans.com/cgi-bin/blog/mt-tb.cgi/1403


