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2006年04月19日

美しき目玉焼きの食し方

美しき目玉焼きの食し方。


東京で最も好きなホテルはどこかと問われると、
躊躇なく銀座「ホテル西洋」と答えます。

部屋からのうらぶれた銀座のビル屋根の景色に目をつぶりさえすれば、
間違いなく東京で最もエレガントなホテルでございます。

ただ豪華なインテリアや、ハイプライスなホテルなら
他にもあるでしょうが、ここのホテルが、他と一線を画しているのは
そのサービスにあります。


まことに貴族的。


タクシーで到着するや「お帰りなさいませ」と笑顔でドアマンに迎えられ、
正面大階段を登り、コンシェルジェデスクへ。
(フロントデスクなんて下品なものはこのホテルにはございません。)

簡単にサインだけ済ますと、モーニングコート姿のバトラーの案内で
いつものお気に入りのお部屋へ。

そこは私くしのリクエスト通り、デスクランプのワット数も、
窓の開閉もすべていつも通り。

アメニティーも一日使いきりの簡素化された、しみったれたものは一切なく、
デカイ石鹸、デカイ歯ブラシ歯磨き、デカイバスタオル、デカイバスローブ。
アロマオイルもケチケチしてなく、ドカンとひと瓶。
まことにラグジュアリ−。(帰り荷物がナゼか増えます)
スタッフの笑顔や態度は快い慇懃さ。

ディズニーランドやリッツカールトンあたりで見られる、
アニマルが貼りついたような笑顔なんてなさいません。

信じ難いことに、10年程前までは、なんと朝刊にはアイロンがかけられ、
客の手を汚さないような配慮がされていたのです。
(残念ながらこのサービスは今はありません。)

現在も、宿泊客とレストラン利用者以外はあの正面大階段を登ることは許されません。
つまりは関係者以外は入館できないのです。


ああ!なんと古典的で懐古的で保守的で

排他的なホテルでございましょう…!


他では絶対見られない封建的香りがプンプンする正真正銘のエレガントなホテルでございます。

そんなホテルですから、勿論朝食もラグジュアリ−。
本物の蜂の巣付きのハニーに、小皿というには大きすぎる皿に
溢れんばかりに入れられた各種のジャム。

余ったらどうしはんねんやろ…とよけいな事を考えさせられる程の贅沢さでございます。

「卵料理はいかがいたしましょうか?」

こんなホテルでは料理人の腕を伺い知るためにも当然オムレツとするべきなんでしょう。
が、
「目玉焼き…いや、フライドエッグ。片面焼きで半熟でお願いします。」

と、気取って注文。
(アメリカで両面焼きのカリカリの目玉にされた苦い思い出があります。)

私くしは、その半熟片面目玉焼きが大好きなのでございます。
家でも時間がある時はジュージューしております。

でも、たかが目玉焼きといえど、ここの卵は別格。

黄身は限りなくオレンジ色に近く、
こんもりドーム球場のように盛り上がっております。
白身もプリプリと弾力性があり、
やっぱりいつも買うコンビニ卵とはあまりにも差があります。

ところが、そんな大好物の目玉焼きも、いざフォークとナイフを手にするや、
溜め息と共にピタリと手が止まってしまうのです。


どうやって食べたらいいの…


家の目玉焼きなら、適当にペロリとやっちゃいます。
でも、ここは超セレブの集まるホテルのメインダイニング。
メートルドテールの黒い服の目もありゃ、一見上品そうな紳士淑女の目もございます。

こういった重圧にいとも簡単に私くしは屈するのです。

貴族的なサービスをしてもらいたかったら客側も、
付け焼き刃にしろエセにしろ貴族的マナーを示す義務がございます。

白身はまだいいのです。フォークに何かと乗っかります。


問題は黄身。


間違って銀のナイフに触れようものなら、薄皮を破って黄身がドロリと溢れ、
収拾つかなくなってしまうのはご承知の通り。

黄身とナイフは犬猿の仲でございます。


ああ、私くしの大好きな黄身ちゃん…。


黄身で汚れた高級皿ほどきたならしい物はございません。

で、よくあるテは、パンでぬぐって食べるという方法。

おフランス料理などの皿に残ったソースもパンでぬぐって食べましょう。
−なんてよく言われますが、
私くしこのパンでぬぐうという行為がどうも好きになれません。

とっても卑しいと思いません?

汚れた床をモップで拭いて、
そのモップを食べているように思えて仕方がないのです。

パリのマダムもこうして食べるのよ、と言われるのですが、
パリの上級マダムがこんなモップソースを食している
現場を未だ見た事はございません。

アメリカのインスタントセレブあたりがフォーマルの場でわざと
カジュアルを気取って、それがカッコイイと見せつけたのが始まりかもしれません。
いいかげんな「自由、平等」の精神はお行儀まで悪くしちゃうのです。
アメリカってホントお粗末…。

なぁんて考えているうちに白身ばかりを食べてしまい、
黄身だけがポックリ残ってしまう事態となります。

で、その黄味をフォークですくって一口でポイとお口へ、といきたいとこですが、
そう甘くないのが黄味のシブトイところ。
よほど気をつけないと、口に入る直前でボタンと落ち、
そこいらじゅうが黄味の海となります。

黄味とフォーク、これまた相性が悪いのでございます。

そこで、ウェイターの方にお願いして大きめのスプーンを一つ。

フォークの背でいたわるように黄味をそっとスプーンに乗せ上げます。

そして、黄味をお口の中へゆっくり運び込み、
めでたく味わうことと相なります。


ああ、スプーンと黄味とのハーモニー!


これがエレ伝流、目玉焼きの美しき食し方でございます。

ただし、気をつけないといけない事が一つ。

黄味を乗せたスプーンを丸ごと口に入れる事。

それにはできるだけ大きな口を開ける事。
淑女にはお勧めできかねます。

たかが目玉焼き。されど目玉焼き。

エレ伝泣かせの目玉でございます。


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投稿者 tadashi : 2006年04月19日 09:08

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