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| 【LANCIA
Y】ランチア イプシロン |

ランチア イプシロン。その名を聞いてもピンと来ない人には、アウトビアンキY10の後継モデル、と言えば少しはお分かりになるだろうか。80年代、お洒落なお兄さんやお姉さんがこぞって乗っていたイタリアン・スモール、あのアウトビアンキである。丸目がキュートなA112、後継のY10とその系譜は続く。Y10は85年、まだ角張ったフォルムが主流の時代に、空力ボディをまとって颯爽とデビューし、1000ccクラスながらも、クルマ好きの憧れを集めた魅力的なモデルだ。かくいう私もその絶妙のボディラインに通学カバンを片手にしばし見とれた記憶を持つ……。そう、そのY10の後継モデルが今回ご紹介するイプシロンなのだ。残念ながらこのモデルで“アウトビアンキ”というブランドネームは姿を消した。しかし、冠されたブランドは泣く子も黙る“ランチア”である。それに車両名の「Y」。ちなみにこのYはイタリア語読みで“イプシロン”と読む。
ランチア、といえばやっぱりWRCラリー制覇だろう。世界最高峰のこのラリーでランチア・デルタが6連覇を成し遂げた偉業は、今も色褪せることなくクルマ好きの老若男女の心に灼き付いている。そんな“走り”のイメージが強いランチアだが、実はフィアット・グループの高級車ブランドに位置づけられている。そのラインナップには「リブラ」や「デドラ」や「ムルティプラ」といった、なんだか舌を噛みそうな名前のクルマが並ぶ…。今回私が試乗させてもらったのはイプシロンのROSSOというモデル。どうかこの唯一無比のルックスを見て欲しい。クルマのデザイン界にあっては(そんなのあるかどうか分からないけど)間違いなく前衛芸術だろう。しかもこのうえなく美しい。どんなスポーツカーだって、高級車だって、太刀打ちできない存在感がそこにある。資料によるとデザイナーが最初に描いたイメージスケッチをほぼ忠実に再現したものだとか。冗談抜きでスケッチブックからそのまま飛び出してきたクルマ、というわけだ。
その外観のみならずドライビングフィールも鮮烈だ。私はクルマを操る腕は皆無に等しいが、「おおお、これがランチアなのね!?」とそのエンジンの独特の鼓動には胸が高鳴った。初めてハーレーに跨らせてもらった時のような感じ。マシンが生命体として存在している感じとでも言おうか……。とにかくこれは楽しそうだぞ、というのが正直な感想だ。さらにもうひとつ魅力的なのがカレイドスというカラーオーダーシステムの存在。なんとイプシロンは標準色8色に加え、オプションで108色用意されている。108色。(あんまり凄いので思わず繰り返してみました)ここまで非効率な、でもここまでイカしたクルマづくりができるのはさすがイタリア、というしかない。以前どこかの雑誌で、自動車評論家の大御所T氏が、このイプシロンを2台購入したという記事を読んだ覚えがあるが、それもなんだか納得できるような気がしてくる。そんな通泣かせのイプシロンだが、悲しいことに日本に正規輸入はされていない。街にあるフィアットのディーラーに行っても買えないのだ。まあそれが一層レア感を煽っているのも事実だけれど……。とはいっても、信頼のおける輸入車ディーラーがキチンと並行輸入を行っているので、欲しい人はぜひガッツで問い合わせて見て欲しい。一度眼にしたらきっと忘れられないクルマ、イプシロン。ちょっと困ったようにも見えるその顔立ちを眺めながら、私はふと、幼い頃に聞いた「ハンサムはやめとき、飽きるから」というおばさんの言葉を思い出していた。
(Text by Kayo Komori)
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