●第3回“死の泉”のススメ
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「死の泉 」皆川博子著
ハヤカワ文庫 860円 |
今回はじっくり腰を据えて読む一冊をご紹介します。
“死の泉 皆川博子著 ハヤカワ文庫 860円”です。
第二次大戦下のドイツで私生児を身ごもったマルガレーテは「レーベンスボルン」という私生児を安全に産む事の出来る施設へとやってきます。しかし、そこはナチスの施設でドイツ人だけでなくポーランドからも一定の規定をクリアしてドイツ人化させるために強制的に連れてこられた子供たちをも収容するアーリアン至上主義(ドイツ人は世界で一番なんだぜ!という主義です。)にのっとった施設だったのです。そこでマルガレーテはクラウスという医師と知り合い結婚します。
しかし、彼が彼女と結婚したのは彼女への愛だけでなく、みなし子のポーランド人のウィーン少年合唱団ばりの美声に魅せられ、その子供を手元において(独身では養子縁組が出来ないから)自分の手で芸術を高めたいという偏執的な感情からでした。ほんとにこのクラウスというおやじは変態系!なのです。
クラウスの特権で優雅な生活を送りながらも愛を感じられないマルガレーテ。しかし彼女は厳しい訓練に耐える2人の孤児フランツとエーリヒを守りながら我が子ミヒャエルの母として生活を続けます。
やがて戦争の激化とクラウスの美しい歌声を創造するための狂気の行動と共に様々な不幸がマルガレーテ、フランツ、エーリヒ、ミヒャエルに降りかかってクラウスへの怨念を抱きながら家族は散り散りになってしまいます。
それから15年後、ある事件から精神を病んだマルガレーテ、大人になったかつての息子達、クラウスがまた顔を揃えてしまいます。そして変わらず美しい歌声に固執するクラウスの行動と共に家族は加速度を付けて復讐劇へと転がっていきます。
おおまかなあらすじはこんな所なのですが、様々なミステリーの要素を含み、話の中にはナチスの人体実験に関する話や戦時下の醜い人間関係など、重いテーマを幾つも孕んでいます。
ちょっと気になる年下の少年。
そんな中、年端もいかない少年と成熟した女性との信頼と愛情の危うく揺れる感情がとても美しいものとして浮かび上がってくるのです。
一生懸命大人になろうとする少年。彼の思いに気付きつつも年の差から気持ちをはかりかねる女性。どろどろした人間関係の中でとても清らかなものに見えてきます。
年下の美少年なんて!ヨダレじゅるじゅるー羨ましー!と不謹慎な事を言ってはいけません。あくまでも美しいトコなのですから。
とっても暗いし重いけど、詩的で幻想的な”死の泉“は不思議。
この物語は、狂気を孕みながらも牧歌的な第一部から、狂気の果て辿り着く第3部の廃城の地下洞窟の暗黒の世界まで続く、とにかく暗〜い暗〜い、重〜い重〜い話なのです。
この重さ、普通だったら途中で読むのが「もうヤダね!」といくところなのですが、この物語は子供の美声をカストラート(昔映画にもなりましたが、去勢をして音域を広めた歌手)に高める事に取り憑かれた変態おっさんが、自分の妄念だけで人の人生を狂わせ、復讐劇を生むという話だけにとどまらない、詩的で幻想的な物語なのです。
マルガレーテの狂気に至るまでの感情や回想などとても詩情豊かに繊細に描かれています。またミステリーの部分もふんだんに含んでいるので思ってるよりも早く読めてしまいます。
重量感のある作品を求めている方にはとてもオススメです。心が冷え冷え〜〜とくる本なので寒〜い冬に読むと凍死します。雪が降るまでにぜひお読みください。